熱処理の4大要素
要素1: 焼入れ ・・・ 硬くする
要素2: 焼戻し ・・・ 粘くする
要素3: 焼きなまし ・・・ 軟らかくする
要素4: 焼きならし ・・・ 強くする

刃物の出来の善し悪しを決める工程のひとつに熱処理があります。
熱処理は大きく分けると上表の4つの工程に分けられます。

みなさんがよく耳にする言葉に「焼入れ、焼戻し」があると思います。
鋼は焼き入れをすることにより硬くなり、焼戻しをすることにより粘りを出します。
硬いだけの鋼は衝撃に弱く、欠けたり割れたりしやすい。
逆に柔らかい鋼材は刃持ちが悪く、硬い物を切ったり、プラスチックのまな板などを使用する場合は、刃が負けてしまいます。
微妙な言い回し方ですが、刃物にとってのよい鋼とは硬くて粘りがあるという相反した性質が必要となります。

「鉄は熱いうちに打て」といいますが、鋼も鍛えれば不純物が排出され強くなります。
しかし強さがピークに達したら、クールダウンしてやらないといけません。
この作業が焼き戻しです。
焼き戻しをすることにより鋼は硬く粘りのある理想的な状態になります。

鋼と人間は似ている部分が多くあります。
人間も鍛えるばかりではなく、適度なガス抜きがあれば安定した良い状態をキープできます。
ある分野では極端に突出しているが、やもすれば壊れやすく、危うい人間よりバランスの取れた人間の方が安心して付き合うことができます。
刃物用の鋼も硬度ばかり高く、もろく欠けやすい物より適度に硬く粘りのあるものの方がよい刃物鋼といえると思います。

鋼を硬くしたり軟らかくしたりすることも熱処理の出来が大きく左右します。
つまり、よい鋼材を適切な熱処理することにより刃物に適した鋼材に仕上がるのです。
しかし実際に包丁を見てもどんな鋼材でどのような熱処理をされてきたのか、見分けることは非常に難しいと思います。
鋼材の見分け方は別の時に述べますが、熱処理の良し悪しに関しては刃物を使用している中で不具合が分かってくる事が多く、一見しただけでは分かりません。

最後に、良い刃物の条件として研ぎ、鋼材、熱処理の3つがあげられます。
いかに良い研ぎをしても鋼材が悪ければ、すぐに切れ止みます。
たとえ良い鋼材であっても、適切な熱処理が行われていなければ鋼材を生かせません。
つまり良い鋼材(原材料)を選び、適切な熱処理が施されたものを良い職人が研ぐ(仕上げる)。
この3点が揃い踏みしたときに、良い刃物が誕生します。
このうちのどれが欠けても良い刃物は絶対に得られません。